平凡だということ

誰かの何かになるということ

上京生活②

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私の拙い脳が認識した彼の第一印象は、清潔感がある丸っこい男性程度だった。

 

オフィスで最もカジュアルなシャツを纏い、フワッとした無造作なパーマが印象的であった。

 

用意されたデスクに座り、部署の説明を聞いた。

黒目が限りなく茶色く、ギラっとした猫に似ていた。

目が合うと私が逸らすまで逸らさず、捉えられていることが体に伝わる目力だった。

 

そして、話すのがとんでもなく上手だった。なぜそこまで惹きこまれるのか理解はできなかったが、没頭して人の話を聴いたのは後にも先にもあれが最後だろう。

 

YESに導くのがこの上なく上手い。あの若さで出世している理由はすぐ理解できた。

 

それが課長との出会い。

私はなんとか懐に潜り込もうと必死に部署に入りたい思いを伝えた。

会社の中ではハードで志願者が少ないのを後から聞いて気は引けたが、

ど田舎から東京に出てきた私に恐怖心など二の次だった。本能で志願していた。

 

そうして私は課長のいる部署に配属されることになった。他の新卒は3人。

他の部署と比べると少なく、研修期間で仲良くなっていたメンバーだった。

 

本当の意味での仕事が始まった。覚えることなど言わずもがな多く、

メモ取るより脳に焼き付けろというスピードで知識がどんどん詰められていく。そしてすぐに実践、何より実践という社風だった。丸腰で戦場に放り出され、何かを持って帰ってくるスタイル。スライムでレベルを上げたいのに、知らない強い奴とずっと戦わされた。

 

課長は指示とアドバイスをくれるが答えは一切くれない。各々が出した結果から成功の手がかりを探させた。同期と傷を舐め合い、時には成長や才能の開花に驚かされた。この時期の時間は逆に濃厚でなかなか一日が終わらず困った。

 

配属されて数日くらいで、課長から飲みに誘われた。

正直かなり迷った。何を喋るべきか?そもそも何故私は誘われた?

脳はコンマ数秒停止し、相手に表情を悟られる寸前でYESの指令を体に出した。

 

私にとって初めての上司とのサシ飲み、そして初の下北沢だった。

 

続く。